僕はなぜ米をつくるのか

僕はなぜ米をつくるのか

2022年12月19日
伊津信之介

リンゴガイで田の床は鏡のよう

いくら野菜がつくれても

よそ者に田んぼはできない

この言葉が何年も心に残った

2012年正月3日突然のチャンスが生まれた

「いづさん 田んぼやらんね」

何も考えず「やらせて下さい」と答えた

突然3枚(30a)の水田で水稲を栽培することになった

籾の用意がないので苗を予約した

古い田植機をくれるという人が現れた

これで田植えまでは漕ぎ着けた

従来通りの栽培法で肥料などを準備した

前耕作者に大まかな栽培法を尋ねた

インターネットで「田植えの方法」を調べた

プリントした図の通り田植え機を動かした

さて稲刈りはどうしようか?

農機具屋さんが中古バインダーを紹介してくれた

その後中古の脱穀機(ハーベスタ)も入手出来た

これで掛け干しの用意が整った

結果として「掛け干し」(天日干し)になった

これが評判になった

あっというまに3反(30a)の掛け干し米は売り切れた。

2013年(2回目)も『掛干し』は続けた

                米づくり2年目の2013年は、2枚の田んぼが増えて5反になった

離れた田んぼはコンバインで刈ってもらおうと思った

当てがはずれてバインダーで4.5反すべて刈った

畝間が空き、蛇行した田植えも稲が見事に覆い隠した

刈り取って紐で束ねてくれる『バインダー』で稲刈りをする

文房具のバインダーはこれから派生したのかと納得

田んぼの脇に並ぶ歩道の手すりが丁度良い掛干し場

水分を計りながら1週間かからないで乾燥した

キャタピラで移動しながら脱穀するハーベスタ

コンバイン袋に約30キロづつ収めて倉庫へ

昔ながらな精米所で籾摺り・精米して完成

日本の「おこめ」はこうして脈々とつくられてきた

日本の原風景「掛干し」を守った

田んぼを手にするまでは『米づくり』がしたいと願った

3反の水田での掛干しは新鮮で楽しかった

2013年も、5反の「夢つくし」栽培は掛け干しだった。

干す作業と脱穀作業で腕の上げ下ろしは疲れた

家族で掛干しは3反までにしようと話し合った

2014年3回目の米づくりは

『掛干し』

『コンバイン・乾燥機』で機械化が始まった

米づくり3年目の2014年は2町歩を超えた

1反(10a)は300坪(9920m2)、1町(1ha)は3000坪

なんとも恐ろしい広さになってしまったっことか

農業従事者高齢化の現実に直面した

これまで30町も米を作って来た方が止めると言った

地域の水田耕作者約10人が集まった

10町近くを分担し、僕にも約5反が回って来た

考えてみれば僕は今年65才を超えていた、

農家の平均年齢を上回っているのだ

米作りを始めて3年目の高齢者が

2町歩の米づくりをすることになった

これは日本の貧困ではないか

まったなしに6月はやってきて、ため池の堰が切られ、

水路を水が流れだした

 2014年米作り3年目に5反から2町に耕作面積が拡大し、田植機、コンバイン、乾燥機を整えた。2町の水田の約5割が減反の対象になり、6反で飼料米を栽培し、4 反で里芋などを栽培した。したがって実際に食用に栽培した水稲は、掛け干し『夢つくし』1.5反、コンバイン刈り『夢つくし』4.5反、『元気つくし』4.5反、そして急に頼まれて植えた『にこまる』3反の計1町3反に達した。掛け干しとコンバイン刈りを合わせた6反の『夢つくし』は1月中旬に完売した。この分だと4.5反の『元気つくし』、3反の『にこまる』は5月までに売り切れるだろう。

飼料米の栽培でわかった

 この時期もまだ田植え直後に除草剤を1回だけ使って雑草の発芽を抑えた。ほとんどのほ場では農薬散布は行なわなかった。『元気つくし』4.5反には、稲穂が出来始める出穂期に追肥を散布した。飼料米としてカントリーエレベーターに納入する「つくしほまれ」6反はラジコンヘリコプターによる農薬散布を組合に依頼した。

 2014年はじめて飼料米を栽培した。飼料米に ちょっと触れておこう。飼料米とは近くの牧場の牛に食べさせるお米だ。冬期干し草がなくなるのを補い、人の食用に作られる米の過剰生産を抑える苦肉の策が 飼料米だ。玄米で1反約500キロを納めると約8万円が支払われる。国の補助金を使った生産調整だ。減反がなくなった後に飼料米の生産を奨励することで食 用米の生産過剰を抑制する。

 2014 年産水稲は白米1キロ250円を割り込む安値が報じられている。素性のわからない、味の保証のない米でも安ければ売れるということで流通業者は農家から買 いたたいていると聞いている。これに加えて農協も1キロ170円程度で買い入れた玄米を在庫減らしのため安く業者に販売しているようだ。

 なぜこんなことになったのだろう? 農家のほとんどは、刈り取った籾をそのまま
JA(農協)の乾燥貯蔵施設(カントリーエレベーター)に搬入する。乾燥や籾すり、そして販売の手間がかからずに納めただけ買い取ってもらえる。これが農家の美味しい米をつくろうとする意欲を失わせた。米以外の現金収入のある北部九州を例にとれば、いちごや野菜、生花が生産の中心になっている。水稲 は代々伝わる田圃や稲作を止めた農家から委託され、量が穫れれば良いという取り組みでしかない。

 量を穫るためには肥料を効かせる。しかし肥料を多く使った米の味は落ちる。しかしこれで困る事はないので、毎年収量の上がる栽培法で米を作り続け、米の在庫は増え続ける。

カントリーエレベーター

カントリーエレベーター

 全国各地の農村にカントリーエレベーターという共同乾燥施設がある。穀物の集荷、乾燥、選別、貯蔵などを行う施設。 穀物収穫期の過重労働を回避するための合理化、生産・流通費の低コスト化、高品質で大量均質な穀物の供給、組織生産の促進を目的とする。

山裾で美味しい米が出来る地域と海岸沿いの砂地の地域とで同じカントリーエレベータに納品されると、悪貨は良貨を駆逐してしまう。この地域の米は直販所等で売り上げが上がらない。農家がカントリーエレベーターから受け取るお米は、自分が搬入したお米とは言えない。みんなが搬入したお米の中から自分の出荷量に応じた分のお米を受け取る形になっている。運がよけれが自分より条件のいい田んぼのお米がもらえるが、当然その逆もある。農家は農協に依存し続けるか、稲作から手を引くかの選択を迫られる。

 そんな背景で、高齢を理由に地主に田を返す動きが加速している。返された地主も自分で耕作する設備機材を持たないので、耕作者を探すか田を手放そうとしている。

 主食としての美味しい米を地域で消費する体制がとれれば、状況は変わって来ると思う。それで僕は米をつくり続けている。

2015年4回目の米づくり

コンバイン刈りと掛干し

『特別栽培』のおいしいお米を!

 慣行栽培農家から引き継いだほ場は、順次「ふくおかエコ農産物認証」を取得し、特別栽培にした。2015年は夢つくし(4反)ともち米(1反)でふくおかエコ農産物認証」を取得した。。稲苗はJA生産の苗を購入した。JA宗像では育苗まで に3成分の農薬を使用する。田植機に装着する箱苗に3成分の農薬を散布する。田植え後3成分の除草剤を散布する。これで9成分まで許される減農薬栽培の基準をなんとかクリアする。

 ふくおかエコ農産物認証制度とは、化学合成農薬の散布回数(成分回数)と化学肥料の使用量を、ともに県基準の半分以下で生産する栽培計画を認証する制度で、この制度に基づき、生産された農産物(認証農産物)には、認証マークが貼られている。

2015年7月9日撮影の写真は6月16日田植えの夢つくしだ。
苗間隔24cmと30cmの現在より狭い、苗取り量は標準から1目盛り少ない。
箱苗10箱/反で14箱使用したが、現在は37株植え10箱になった

1970年度に開始された減反政策は

2018年度に廃止された

すべてのほ場を「リンゴガイ」農法に切り替えた

2016年5回目の米づくり


 2016年度は、ふくおかエコ農産物認証(特別栽培米)取得し、「栽培期間中無農薬」を表示するために、自家育苗に切り替えた。そして飼料米栽培を止めて、人が食べるお米だけつくることにした。除草剤を使わない「リンゴガイ農法」に切り替えた。したがってほ場は1年を通して無農薬除草剤不使用となった。

2017年6回目の米づくり

リンゴガイ農法への道

九州のお米食味コンクール

『個人チャレンジ部門特別賞』受賞

2012年1月3日に「米つくらんか?」と声をかけられて始めた米作りも7年目を迎える。2018年1月3日に伊規須慰夫さんが85歳でなくなった。米づくりを始めたのは慰夫さんの来訪がキッカケだった。

それから年ごとに慣行栽培から無農薬・有機栽培へと進んできた。栽培面積も10倍になった。

そして2017年11月に開催された「九州のお米食味コンクール」で約671件の出品検体中59位で『個人チャレンジ部門特別賞』になった。食味値も82点で美味しいと言われてきたお米の客観的評価が得られた。

除草剤を使わない水稲栽培は、宇根豊さんの書物や前原地域の環境稲作研究会 による方法では、数ミリ単位の厳密な水位管理が必要とされてきた。僕が耕作するほ場ではとても難しく思われた。

 WEBに掲載された宇根 豊さんの「環境稲作のすすめーコメだけが、田んぼの「生産物」ではない」では、「環境稲作研究会」(藤瀬新策会長)が出版した「環境稲作のすすめ」から、ジャンボタニシ活用除草法、カブトエビ活用除草法、中耕深水除草法の一部を抜粋して掲載している。
本文執筆者:宇根 豊(農と自然の研究所代表)https://hb7.seikyou.ne.jp/home/N-une/2-d-4-kannkyouinaskaunosusume.htm

なぜわずか5年ほどでそこまでたどり着けたかというと、リンゴガイで除草ができたからだ。そのきっかけは米農家・福島光志さんのアドバイスに負うところが大きい。

福島光志さんの

『田植から分けつ期までの水管理』の実際

まずリンゴガイで除草することだけを意識する。

1.田植え後水を落とし

2.床に雑草の芽が見え始めたら

3.稲苗が水で覆われる位に水を張る(凸凹の床が水で覆われる)

( 一昼夜ほどで床の雑草を食べ尽くしたリンゴガイが稲苗に登り葉を食べ始める)

4.稲苗葉の切片が水面に浮いてきたら

5.一気に落水し床を露出させる

2.〜5.を数回繰り返すと硬くなった稲苗をリンゴガイは食べなくなる。

2019年、初めて雑草に悩まされた

除草剤を使った慣行栽培から除草剤を使わないリンゴガイ農法まで7年ほど、ほ場の雑草もなんとかなった。しかし、2019年の低温・空梅雨・日照不足は、リンゴガイの活動が不活発で、1/3のほ場が雑草に覆われた。

2019年の除草

1.手押し式除草機「アイガモン」で除草したが縦・横の作業に時間がかる

2.草刈りエンジン「オータケ中耕除草機」で縦方向の除草するたびに、ドラム損傷、交換2回、リベットをボルトにクボタで修理。ドラム固定をボルト止めに変更修理後に問題解決

3.草刈りの刈歯を工夫した「畑のシェーバー」で水を落とした田の草刈りを行う。中干し時期の除草に有効。

4.中干し後に水を張った田ではオータケ中耕除草機で縦横除草

水張りができている場所には雑草がないが、水張り不足の場所は雑草が繁茂。       

溝切り〜中干し期まで十分な水張り、中干し後間断かん水、水位を十分に確保する。

リンゴガイ農法の大農家との出会い

2019年7月末に宗像市大井の山田さんを訪ねた。クボタの原田さんからオーレック乗用水田除草機のデモに誘われ、山田さんのほ場に出かけた。日を改めて訪問し1時間近く話を聞いた。農作業の中心の中野さんも加わり山田さんの方法をうかがった。数年後山田さんは離農したと聞いている。

1.肥料はペレット鶏糞200K/反(トラクター散布)、田植え時に側条で「有機肥料」

2.代かき時にトラクターで.強い雑草を踏み込む

3.山田さんは田んぼに苗箱を並べて育苗し、30日育苗し成苗にしている

4.田植え後水を落とさず「浅水」を保つ

5.除草作業の目安は?                        

リンゴガイ農法

 『除草剤は散布しない!』

1.リンゴガイ農法では、田植え直後に水張りをゼロにしてリンゴガイを眠らせます。

2.10日後位に雑草の発芽が始まったら、稲苗の先端が隠れるまで水を入れます。

3.水に被われた床で活動を開始したリンゴガイは、一昼夜ほどで雑草の芽を食べ尽くします。

4.雑草の芽を食べ尽くし、稲苗を食べ始めると、ちぎれた稲苗先端葉が水面に浮かび始めます。

5.この時、再び水を落としてリンゴガイを休眠させます。

6.注水・落水を数回繰り返し、苗が成長したら、通常の浅水管理で栽培します。株元が固くなった稲よりも、生えてくる雑草を好んで食べるので、除草剤散布の必要はなくなります

         『ジャンボタニシと呼ばれるリンゴガイの生物学的分類は、タニシと異なるリンゴガイ属になる。

リンゴガイ属には、スクミリンゴガイとラプラタリンゴガイが属している。

種の特定をしていない「いわゆるジャンボタニシ」は、スクミリンゴガイより、リンゴガイという属名が適切だ。』

リンゴガイ
(俗称ジャンボタニシ)

2020年9回目の米づくり

『なぜ除草剤を使わないのか?』

『なぜ僕はお米をつくるのだろう』と考えながら、8回目の米づくりを終え、9回目の米づくりに向かっている。約20年前、家の前に水田が広がる地で畑を借りて野菜を作り始めた。野菜づくりは次第に無農薬有機栽培へと向かった。2012年に縁があって米づくりを始めてからも、除草剤・農薬を使わない有機栽培を目指して、除草剤を使わず貝に草を食べさせて除草する、リンゴガイ農法にたどり着いた。米づくり以外の事に捉われず、土と向き合う、単純な生き方に集中してきた。

『なぜ僕はお米をつくるのだろう』の答えは、大学生だった約50年前の1969年、ベトナム戦争の枯葉剤空中散布に反対したことにある。僕が野菜・米をつくるなら、倫理的・論理的に除草剤は使えない、ということだ。

2019年、初めて雑草に悩まされた。除草剤を使った化成慣行栽培から除草剤を使わない有機リンゴガイ農法まで約5年ほどで移行した。しかし、2019年の低温・空梅雨・日照不足は、リンゴガイの活動が不活発なのと水管理がうまくいかず、約1/3のほ場が雑草に覆われた。

2020年の米づくりを始めるにあたって、「病害虫がない」「食味が良い」という良い結果の理由を求め、なおかつ雑草を減らす努力をすることにした。

そんな時に出会ったのが、生態系調和型農業理論(BLOF)だ。「森林、湿地、山地、および乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復、および持続可能な利用を確保する。」という水稲の有機栽培を理論的に裏付けてくれる気がする。

          生態系調和型農業理論
『BLOF』

BLOF(ぶろふ)理論は、小祝政明氏(株式会社ジャパンバイオファーム)が提唱する、科学的・論理的な有機栽培技術。 「Bio LOgical Farming(バイオロジカルファーミング):生態系調和型農業理論」の略です。 トゥリーアンドノーフの栽培方法もこれに準拠しています。

小祝政明氏は、2019年9月25日、アメリカ、ニューヨークの国連総会にて、SDGs(持続的な開発目標)をテーマとした国連職員向けのカンファレンス(技術学術検討会議)にて、「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」という目標を達成するためのBLOF栽培技術で一席に選ばれた。

国連総会SDGsカンファレンス2019
http://www.jofa.or.jp/news/entry-197.html

日本有機農業普及協会
http://www.jofa.or.jp/

2021年度(10回目の米づくり)

「にこまる」一等米・食味値82点
「元気つくし」一等米・食味値71点
「夢つくし」二等米・食味値74点

収穫量は、夢つくし < 元気つくし < にこまる

 2021年は、田植えから1ヶ月後の7月16日に雨乞い神事を行うほど、前半は渇水に見舞われた。後半は下月下旬から台風と前線の停滞で日照不足になり、いもち病やトビイロウンカなどの被害も心配された。

 リンゴガイ農法にとっては、圃場の高まりに雑草が繁茂しやすい状態が顕著であった。リンゴガイが苗を食害しない時期に雨が多く、高まりの機械除草が追いつかない状態のほ場がいくつも出てきた。

食味測定

 食味スコアとは、米のおいしさを表す指数のひとつで、米・食味分析鑑定コンクール国際大会でも、ノミネート者を選ぶ(1次審査・2次審査)際の基準の1つとしている。この場合の食味判定は、一般に食味計と呼ばれる測定機器による以下の成分含有量の測定結果に基づく。数値化された食味値を用いて、総合的に評価される。たとえば、食味値を100点満点で表示する場合、標準値を60〜65点に設定するという方法を採用する。したがって、標準値より高いほど美味しい米とされる。最近の良食味品種の増加や美味しい米作りの努力により、日本産では、65-75点が基準になっている。食味を向上させて、70-80%の人が美味しいと認める、70点以上の良質米作りを心がけている。

リンゴガイ農法で栽培した「にこまる」の食味
 2017年の第1回九州のお米コンクール個人チャレンジ部門で「にこまる」が特別賞を受賞し、お米の味を表す食味値は82点(にこまる)だった。その後も「にこまる」80点以上を維持している


リンゴガイ農法で使う有機資材

               1.秋耕 花巻酵素「ライズ」・大久保養鶏場「発酵鶏糞」(容量20kg          

2.育苗培土 関東農産 「水稲用有機質育苗培土」(容量24L)

3.元肥 東肥料「魚ぼかし・甘果」(容量20kg

                              4.穂肥 ACM「てんてん」(容量15kg)  

掛干しの一コマ

1.バインダで刈り取り 2.藁束をみんなで運ぶ
    3.みんなで竿に干す           4.掛干しのお昼ごはん
5.乾燥したらハーベスタで脱穀

                   

3ヘクタールもの広い田んぼで米づくりをするために

田植機、トタクター、肥料散布機、コンバイン、乾燥機、もみすり機、精米機などを購入した

無農薬・有機栽培のお米を販売するには

独自販売しか道はなかった

1.慣行栽培から無農薬栽培へ

 慣行栽培は、「慣行」という言葉が表すように従来型の栽培技術だ。 病虫害の駆除・防除および除草のために農薬を使用し、生育促進および収量増加のために化学合成肥料を主に使用する。日本においては戦後に普及し、戦後復興に不可欠だった食糧増産に大きく貢献した。

 僕の米づくりも、前作者の慣行栽培を引き継いだ。最初は化学合成肥料を使ったが、翌年から有機発酵肥料に切り替えた。ラジコン・ヘリコプター防除による農薬散布は最初から頼まなかった。
 一方で除草剤を使わない栽培法を探し続けた。「農と自然の研究所」代表宇根豊氏の書籍で、1993年より佐賀県の「稲守貝研究会」が、稲守貝(ジヤンボタニシ)による水田除草を行なっている事を知った。そのノウハウは、宗像市の「農業福島園」福島光志 さんから『たっぷり水を入れ、稲の葉が浮いてきたら、水を落とす』という助言で、リンゴガイ農法としてまとまった。思い返せば、水稲栽培を始めた時から、農薬・除草剤不使用の有機栽培を志向していたのだ。

                                     2.環境破壊と枯葉剤

2-1.僕は深海底4000メートル付近に分布する「鉄・マンガン団塊」の成因を研究していた。このマンガン団塊は、鉄・マンガン・ニッケル・コバルト他の有用金属の集合体なので、世界はその採掘を目指していた。しかし現在に至るまで採掘は行われていない。採掘のために4000メートルの海水を攪拌することが、海洋環境に計り知れない影響を与えるからだ。レアメタルが枯渇し、環境破壊を顧みない深海底開発が行われないことを願っている。

2-2.次に枯葉剤だ。1969年6月の新宿駅西口「地下広場」で、反戦フォーク集会が毎週行われた。僕は、反戦フォークの合間に、ベトナム戦争で非人道的な枯葉剤が散布されていることを話した。枯葉剤は、ベトナム戦争で、ベトコンの隠れ場となる森林の枯死、およびゲリラ支配地域の農業基盤である耕作地域の破壊が目的であったといわれる。枯葉剤は1964年以降から1975年にかけてゲリラの根拠地であったサイゴン周辺などに、とりわけ、大量に撒布された。ダイオキシン類のなかでもっとも強い毒性を持つTCDDは非常に毒性が強く、動物実験で催奇形性が確認されている。

2-3.現在使用されている除草剤は、枯葉剤とはことなるが、グリサホート(ラウンドアップ)などは発ガン性が指摘されたり、根まで枯らすので路肩崩壊などを起こすと指摘されている。反戦フォーク集会で枯葉剤散布を非難した僕は、同じ効果を期待して除草剤を散布することはできなかった。

1と2の理由で環境に配慮した、安心・安全な米づくりを目指した。農薬・除草剤を使わないで、最低限の有機肥料で有用植物を栽培するのをモットーとした。有機栽培を志向した理由はこんなところだろうか。

3.有機JAS

無農薬有機栽培といえば「JAS有機」だ。国の認定を受けた有機栽培でないと「無農薬」という言葉を生産物に対して使うことができない。「有機農業の推進に関する法律」による有機農業の定義は以下の農業生産の方法を用いて行われる農業だ。『化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない、遺伝子組換え技術を利用しない、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する』

「JAS有機」認証を取得するためには、周囲のほ場と定められた距離がないと難しいので、上記条件はクリアしているが「無農薬」という言葉を使うのは諦めた。化学的に合成された肥料及び農薬を使用していないことは、福岡県エコ農産物認証を取得することで客観的に証明されている。

ふくおかエコ農産物認証を全てのほ場(約35ヘクタール)で取得し、認証番号は以下の通りである。1511292(うるち米)2011675(もち米)


2022年(11回目)の米づくり

 実は私、2022年1月16日から脳梗塞で入院、リハビリの結果3月3日に退院し、1ヶ月が経過して通常の活動ができるようになりました。車の運転から農業機械の操作に支障ありません。ただ筋力が落ちたため重量物の運搬がままならず、人の助けを借りながら、2023年度へ向けて準備を進めました。           
10月:米づくりは秋に始まる10月:米づくりは秋に始まる2021年10月『稲刈後の秋耕作』ライズと発酵鶏糞散布 クボタKR43前にブロードキャスタ、後にコンボキャスタ装着、鶏糞10袋/1.5反・ライズ散布 2袋/1.5反 土壌分析結果で、苦土石灰+カキ殼石灰を追加

1月:年の始めは寒起こし

2022年1月『寒起し〜田起し〜基肥』 1月前後にトラクターで浅く耕運

3月:草が動き出したら畔草刈り

4月:基肥の散布は雨より先に

4月〜5月醗酵魚粉堆肥『甘果』散布・耕運(120Kg/反) 併せて畔草刈り

5月:雨が降ったら畦塗り!

5月〜6月雨の具合で「畦塗」 畦塗り後に取水口整備

催芽・浸種・播種 5月2日〜浸種  5月7日『播種』約35日育苗キトサンで種子消毒

6月: 6月10日溜池開栓 水がほとばしる『6月10日〜20日田植え』

    苗箱10枚/反   田に水を張る前に、北神酵母液を2L/反滴下

 代かき(6/10〜6/20) 床面の七割が水で満たされたら代かきの水は適量

田植え(6/10〜6/20)

田植え前日フルボ鉄1000倍希釈散  田植え当日フルボ鉄粒剤50g/苗箱

6月中旬:中耕・除草(床面撹拌)

田植え後1週間(6月17日〜中耕除草開始!

7月:中干し(溝切り) 7月10日(落水)畔内側草刈り  本田の草取り

7/24〜8/8 (間断潅水)穂肥(てんてん・にがり) 畔内側草刈り  本田の草取り

8月〜:出穂 (浅水)

8/8夢つくし・8/21元気つくし ・8/28にこまる・ヒノヒカリ・9/2ヒヨクモチ

9月:稲刈 (落水)

9/10夢つくし ・ 9/30元気つくし ・ 10/12にこまる・10/15ヒノヒカリ ・10月22日もち米

2023年の米づくりのつぼ

1.田植えの1週間後に除草開始

オータケ乗用除草機を導入し、田植え後1週間で水を張り除草・中耕を行う予定です。

2.間断潅水

間断灌水で水を入れるたびに乗用除草機で中耕を行い床を撹拌する。

3.中干しでシェーバー

中干しの際に畑のシェーバーで本田の草刈を行う。

4.潅水

灌水は2晩置いてリンゴガイの活動を促すと同時に、床の柔らかさ高める。

5.ブルモア

畦草刈りをブルモア標準とし、旋回可能な幅を確保する。

6.水口の整備

水口を冬季に整備し、水張りを短時間で行えるようにする。

7.土のう

水口の調節に便利な土のうを田植え前に用意する。

8.お米の種類

2022年度は、にこまるに「シラタ」(乳白粒)が多く、粒度もやや小さい傾向が顕著だ。水不足の影響と思われるが、ヒノヒカリでは見られない。

2023年度は、収穫の早い順に、夢つくし、元気つくし、にこまる、ヒノヒカリ、古代米「緑米」、餅米「ヒヨクモチ」を予定している。これに武蔵国分寺種赤米(国分寺赤米プロジェクト)、とイセヒカリ(伊勢神宮で生じたコシヒカリ突然変異種)を栽培することになった。